『北見の海岸』
沖合はガスにうもれている
渚はびつしよりに濡れている
その濡れた渚に黒い人かげが動いている
黒い人かげは手網をさげている
黒い人かげは手網をあげて乏しい獲物を
たずねている
黒い人かげは誰だろう
黒い人かげはどこから来ただろう
・・・これは、『北見の海岸』という中野重治の詩の一節です。
それは北海道のサルフツ海岸を歌ったようです。
古い伝説にも、ここに異様な人影が現われるともあります。
いつか晩秋の冷雨の降るサルフツ海岸を通ったとき、何かに驚いて飛びたった野鴨と白鳥が、石版色の空を舞っていたことがあります。
しかし、今札幌ツアーのついでに行ってみてもそこがどこであったか、もう探しようがないほど、あたりはすっかり草地改良されています。
のんびり乳牛が草をはんでいて、道傍には「牛に気をつけて下さい」とドライバーに頼む立看板が立っているほど。
この辺の酪農家は根釧原野より大仕掛けで、経営面積は大抵一戸100ヘクタールで、搾乳や処理はすべて電化されていますが、一軒に必ずといっていいほど野狐の一家族が同居しているのです。